《MUMEI》

「二人きりじゃなくても、自分が行きたい場所に蝶子を連れていけたら俊彦はそれで満足するわよ。

おまけに

商店街の旅行は、一斉に行かないで、二つに分けるから、あんたみたいな

邪魔者は、排除できるしね」


そう言って、麗子さんは孝太に向かってニヤリと笑った。


「…」


「困る時の、癖ね」


麗子さんは、人差し指を一本立てた。


孝太を見ると、人差し指で、眼鏡の中央を押さえていた。


孝太は軽く舌打ちをして、手を膝の上に戻した。


「好きな人の仕草はチェックしてるのよ、私」


「好きな人に対する態度が、これか」


「ほら、私、好きな男にはSだから」


「初耳だ」


「そう?」


うんざりする孝太と対照的に、麗子さんは生き生きしていた。


(意外とこの二人、似てるかも…)


『好きな人をいじめる』という点で。


「何? 蝶子」


この雰囲気ではさすがに言い出せない私は、無言で首を大きく横に振った。


それを見て麗子さんは、『変な子ね』と笑った。


それから、麗子さんは孝太を先に帰らせて、私を送ってくれた。


その途中で、麗子さんは私に『昼間はごめんね』と謝った。

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