《MUMEI》
プロローグ
窓の向こうでは子供たちが誘い合いながら、夕暮れの公園を後にしていく。

楽しそうな、はち切れそうな笑顔の子供たち、そして口々に飛び交う明日の約束。

彼らのまだ小さな瞳には、今日という日がどんな風に見えたのだろう。

ただの暑かった1日・・それとも宝物を見つけた日?

「・・ふぅ・・」
悠莉は病室のベッドの上で子供たちの声を聞きながら、自分の置かれた過酷な状況を思い、ため息をこぼした。

晩御飯を配る看護師さんの声が近づいてきた。晩夏の頃とはいえ、夕方6時ならきっと辺りはまだ明るいだろう。

しかし悠莉の目には配膳されてきた食事も、優しく声をかけてくれた看護師さんの顔も、逝く夏の夕暮れさえも見えてはいなかった。

失明

21歳の誕生日に、悠莉は光を失った。

原因は交通事故だった。

その日悠莉は医療事務の仕事を終え、短大時代の友人が企画してくれた自分の誕生パーティーに向かうため、足早に駅に向かっていた。ただ歩いていただけだった。

キキキキイィィィーー!!

突然だった。

一瞬の出来事だった。

細い通りから飛び出して来たバイクに跳ねられ、歩道の柵に叩きつけられた。

腕の骨が折れ、頭を強く打った悠莉はそのまま意識を失い、この病院に運ばれ、今に至っている。

腕の骨はひと月もすれば治ると言われた。でもこの闇からはいつ抜け出せるのか、誰も教えてはくれない。

悠莉のため息の数は増えていくばかりだった。



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