《MUMEI》
梅 (うめ)
◇◆◇

 寅の刻。

 凍り付くような寒さで咲弥は目が覚め、格子を上げた。

 仄かに甘い匂いが漂って来る。

 開きかけた梅の花。

 どう、と吹いた一陣の風が、春が近い事を暗示する。

「おお、咲弥。悪い、寒かったろ‥?」

 黒蝶は慣れた手つきで火を熾し、咲弥を火桶の前に座らせた。

 ありがとう、と咲弥が言うと、黒蝶はにっこりと笑った。

「もうじき春だな」

 膨らんだ蕾は、冷たい風に晒されて震えているように見える。

 だが、それらが開くまでそう長くはないだろう。

 春は、ゆっくりと近付いている。

◇◆◇

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