《MUMEI》

そうして、私と俊彦は、『シューズクラブ』にやってきた。


「ちょっと待っててね」


俊彦は、裏口の鍵を開けた。


(本当に、誰もいないんだ…)


事務所の電気がついた。


「…おいで」


私は頷いて、事務所に上がった。


「上、行ってていいよ」


俊彦に言われ、私は電気をつけながら、二階の自宅スペースに上がった。


少しすると、俊彦が、戸締まりをしながら、上がってきた。


「何か飲む?」


俊彦の言葉に私は首を横に振った。


お昼以来何も口にしていないはずなのに、何も欲しいとは思わなかった。


「お風呂、入りなよ。
…シャワーだけでも、すっきりするよ、きっと」


「…いい」


「そ? 俺は、入るけど、…いい?」


私が頷くと、俊彦は風呂場に向かった。


すぐに、シャワーの音が聞こえてきた。


(ど、どうしよう…)


音を聞いているうちに、緊張してきてしまった。


心臓がうるさい。


気持ちを落ち着けようと、とりあえず、居間のソファーに座ってみる。


ふと、手首を見て、ギクリとした。


…孝太に掴まれた跡が赤くなっていたから。


「…どうしたの?」


俊彦が出てきた。

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