《MUMEI》

「何でもない」


「…ならいいけど」


私は俊彦の言葉と姿にホッとした。


頭をタオルでゴシゴシとこすっている俊彦は、きちんとパジャマを着ていた。


「…隣、いい?」


私が無言で頷くと、俊彦は私の隣に…


少し距離をおいて、座った。


俊彦からは、石鹸の匂いがした。


(もしかして、私、汗臭いかな?)


急に自分の匂いが気になってきた。


俊彦がお風呂を勧めたのも、私が汗臭いからではないかと思えてきた。


「あのさ…」


「やっぱり、お風呂、入っていい?」


「え? あ、…うん」


私が急に立ち上がったので、俊彦は一瞬戸惑ったが、すぐにタオルと着替えを用意してくれた。


当然、着替えの中に下着は無かった。


(当たり前よね)


あったら恐い。


私は、湯船には入らず、シャワーだけにした。


それから、全身を拭いて、着替えを済ませた。


それは、いつかの雨の日と同じ着替えだった。


「…これ、あんまり着てないみたいだけど、…気に入らなかったの?」


以前訊けなかった質問をしてみた。


「逆だよ。嬉しくて、もったいなくて着れなかったんだ」


俊彦は照れながら、答えた。

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