《MUMEI》 「ドライヤーあるよ?」 「別にいい…ひゃっ!」 ソファーに座った私の後頭部に、有無も言わさず俊彦が、ドライヤーの風を当ててきた。 「ジッとして。…せっかく綺麗な髪なんだから、ちゃんと乾かしなよ」 「…はい」 私が大人しくすると、俊彦は丁寧に私の髪に優しく触れながら、ドライヤーで髪を乾かした。 その様子は、約束通り昔の『俊兄』だった。 「…よし」 俊彦がドライヤーのスイッチを切った。 「ありがとう」 「…また、伸ばさないの?」 俊彦が私の髪をとかしながら訊いてきた。 「…長いの、好きだもんね」 「短いのも、好きだって…言ったよ?」 私は花火大会の夜を思い出し、赤くなった。 「はい、終わり」 後ろにいる俊彦には、どうやら気付かれ無かったようで、俊彦はそれ以上何も言わなかった。 「で、雅彦の部屋で寝る?」 俊彦は至って普通に質問してきた。 もし、このまま雅彦の部屋で寝れば、多分、このまま朝を迎える。 私達は、何も変わらない。 かと言って、最後まで俊彦を受け入れる覚悟は、今の私には無い。 青ざめて震える私を抱いても、俊彦は後悔すると思う 前へ |次へ |
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