《MUMEI》

◇◆◇

「草薙‥?」

 二人がその方向をみると、そこにいたのは彼だった。

 やはり大内裏に行っていたのだろう。

 ひたすら歩いて来たらしく、肩にはかなりの雪を被っている。

「草薙、大丈夫‥?」

 咲弥は火桶の前に座らせた。

 草薙は、面目ない、と言いたげな表情をした。

「あんな中を良く歩いて来たよなぁ」

 黒蝶は感心して草薙を見つめる。

 だが彼はまだ一言も話そうとはしなかった。

「草薙、どうしたの?」

 咲弥の声にふと顔を上げると、草薙はただ、すまん、とだけ言い俯いた。

 咲弥と黒蝶はきょとんとしていたが、顔を見合わせて微笑した。

「まぁ良かったな、無事でさ」

 まだ彼の肩に付いて残っている雪を払ってやりながら、黒蝶が言う。

「よし、これで少しは増しだろ?」

 その刹那、ありがとう、と草薙が呟くように言ったのが、黒蝶の耳に聞こえた。

◇◆◇

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