《MUMEI》

「ちなみに、孝太からは昔の事、何か聞いてる?」


(ええと、確か…)


「『俊彦は、俺の指定席である窓際の席に陣取って、双眼鏡で道行く女子高生達の足を観察していた』って…」


私は、孝太の常連客である女将の店で、孝太から聞いた言葉を口にした。


「まぁ、間違ってはいないけどね。
何でそんな事してたかは、聞いた?」


「ううん」


あの時、私は『俊彦はやっぱり変態だ』と思って、聞き流した。


「俺は、蝶子を探してたんだよ」


「え…」


「孝太には、ちゃんと言ったんだけどな。

『足の綺麗な幼なじみ』を、『マーメイドちゃん』を、…

『ずっと好きな子』を探してるんだって」


「知らない、私…」


「じゃあ、孝太が足フェチじゃないって言うのも…

知らないね、その顔は」


俊彦は寝返りをうって、私を見つめた。


話が気になる私は、最初から俊彦の方を向いて、横になっていた。


頷く私を見て、俊彦は話を続けた。


「孝太は単に好きな音楽が聴こえるスピーカーの近くの席が気に入ってただけなんだ」

(そういえば…)


私のバイト先の店でも、孝太はスピーカーの近くの席にいつも座っていた。

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