《MUMEI》

「何にも知らない俺は、孝太に言ったんだ。
『靴を選びたいと思う女の子はいないのか?』って。
孝太の顔見たら、すぐにわかった。

『あぁ、いるな』って。

だから、和馬と二人で、『かっこよくなって、その子に告白しようぜ』って…

孝太を丸め込んで

応援して

『会えなかった』って落ち込むあいつを慰めて

『諦めるな』って励まして。



麗子に聞いたよ」


私はギクリとした。


「蝶子だったんだって?」

「私…」


「…聞いてるから、そんな顔しなくていいよ。
責めてるわけじゃないんだ」


俊彦は私の顔に手を伸ばしかけて…


慌ててその手を元の位置に戻した。


「何で気付かなかったんだろうな〜、俺」


俊彦は、天井を見つめた。

「優しくて、思いやりがあって。
ボロボロの靴でも、ちゃんと洗ってあって。
歩き方も綺麗で。

…蝶子に決まってるのに、そんな子は」


「いっぱいいるよ」


あの都会で。


東京で、そんな子は山ほどいると思った。


「でも…俺も孝太もそんな子は、蝶子だけだった。

だから、二人とも

蝶子を好きになった」


俊彦は、再び私の顔を見つめた。

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