《MUMEI》

太一は私を腕に抱き、部屋を眺めている。


「愛加の部屋、変わってなくて良かった」


「もしかして探りに来たの?」


「違うよ!今思っただけ」


そして部屋を見回し、視線が止まる。


「あの赤い花瓶は…?」


あ、佐久間さんの…。


「あれは…イタリアに行った知り合いがいて、お土産にもらったの…」


なぜか佐久間の名前を出せなかった。


「ムラーノ島かな?」


「うーん、たぶんローマだと思うわ。スペイン階段やトレビの泉とかローマの写真ばっかりだったから…」


そんな話をしていると嬉しそうにイタリアの土産話をする佐久間を思いだし、可笑しくなった。


「そういえばトレビの泉って投げるコインの数でジンクスが変わるらしいぜ」


「またローマに戻ってこれるだけじゃなく?」


「この間、結婚した先輩に聞いたんだけど、二枚だったら大切な人と一生一緒にいれるんだって。だから先輩も二枚投げたって…」


二枚?


私は太一の話を聞きながら指を二本立てて「二枚投げた」と自慢げに言った佐久間を思い出した。




大切な人と一生……




私?………な訳ないか…



どうせ写真の人のことを思って投げたのよ!


じゃあ、なんで私に言うのよ!!


あぁー、何、この気持ち!?

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