《MUMEI》

成績が落ちてきているというのに、先生は僕をスタメンから外すことはなかった。


前半終わって


14対10とリードしていた。


僕はまだ無得点だった。


後半。
赤高ボールからのスタート。


セオリー通りパス回しから。


ヤマからのパスが来た。


(落ち着いて周りを見ろ。)


ヤマの言葉が脳裏に浮かんだ。


(周り?)


僕は周りを見回した。


皆がボールに集中していた。


ポストの阿久津と目が合った。


いつものようにワンフェイントからのパス。


その動作をした時だった。

2枚目のディフェンスの注意が、僕からヤマにいっていた。


考えたわけじゃなく。


なんとなくわかった。


ここでヤマを見れば注意をそっちへ向かわせられる。


視線はヤマのまま。


だけどボールは、2枚目の目の前を通過して阿久津の下へ。


「しまっ…!!」


「ナイスパス!!」


阿久津がシュートを決める。


自分が点を取ったわけではなかった。


しかし、何だこの快感は?


敵の目を欺くパス。


これが、僕の武器となった。

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