《MUMEI》
訪問
その日、私は新作の抹茶と栗のパウンドケーキに必要な、栗の甘露煮をもらいに、『花月堂』に来ていた。

(ここにも、あるんだ…)


壁の時計の隣には


最下位になった勇さんの『恥ずかしい写真』と一緒に

『商店街の風紀を乱した罰』として、俊彦の、例の和馬と抱き合っている写真も飾られていたのだ。


「うまく、納得させられたんですって?」


「…おかげさまで」


写真をまじまじと見つめる私に、薫子さんはいつものように花のように微笑んだ。


そして、私は栗の甘露煮を受け取り、会計を済ませ、店を出ようと振り返った。

「あら、いらっしゃい。待っててね、ちゃんと用意してあるから」


「…はい」


そこには、孝太の妹の琴子が立っていた。


「こんにちは」


私が挨拶すると、琴子は頷いた。


「いつもの、餡子?」


私の質問に、琴子は首を横に振って、私が薫子さんからもらった栗の甘露煮を指差した。


(あ、そうか)


私は、『ベーカリー喜多村』で、秋限定の栗入りあんパンを売っていると咲子さんが言っていたのを思い出した。


「じゃあ、お先に」


「待って」


出て行こうとする私の手を琴子が掴んだ。

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