《MUMEI》 「…何?」 「兄さんの事なんだけど…」 琴子の言葉に私はドキッとした。 十月も半分を過ぎたというのに、私は孝太とまだ会っていなかった。 …孝太はまだ『シューズクラブ』を休んでいたから。 『そろそろ、客も騒ぎ出してる』と俊彦が言っていた。 「明日空いてる?」 琴子の質問に、私は 「昼間は大丈夫」 と答えた。 明日は、水曜日で『クローバー』の定休日だった。 『シューズクラブ』も、俊彦も一応同じ休みだが、昼間は事務所や倉庫の片付けをすると言っていた。 俊彦は、店長なので定休日も仕事をしている事が多かった。 だから、私達はまだ、デートをしたことも無かった。 「…兄さんに会ってくれる?二人で」 「二人って、まさか…」 「俊彦じゃないわ」 (?琴子とって事?でも…) 『ベーカリー喜多村』の定休日は日曜日だった。 「お待たせ」 私が琴子に確認しようとすると、薫子さんが『ベーカリー喜多村』の分の栗の甘露煮を持って出てきた。 「…後で連絡する」 「あ、うん」 琴子に小声で言われ、私は『花月堂』を後にした。 その夜、琴子からメールが来た。 前へ |次へ |
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