《MUMEI》

私は千夏に聞かれる前に、太一のことを話した。


「太一とよりを戻したの」


「え・・・佐久間さんは?」


千夏は少し訝しそうな顔をしている。


「前から何度も言ってるでしょ!佐久間さんは友達。それに・・・」


車の助手席に座る女性が目の前に浮かんだ。


「彼女いるみたいよ」


「えっ!!!彼女?高橋さんからそんな話聞いたことないわ。勘違いじゃない?」


千夏は信じられないといった顔をしている。


「私、見ちゃったの。佐久間さんの部屋で・・・二人で写った写真とか、それに二人が車に乗って出かけるところを・・・」


「それだけじゃ分からないじゃない・・・」


千夏は佐久間に彼女がいることを、どうにか否定しようとする。


「それだけあれば十分よ。写真は一枚だけじゃなかったし・・・兄妹じゃそんなに写真なんて撮らないでしょ?」


「そうだけど・・・」


千夏に話しながら、私はイライラし始めた。


「危うく二股をかけられるところだったわっ!」


「佐久間さん・・・そんな人には見えないけどな・・・」


「でも実際はそういう人なのよ!」


平日は私のところに来て、週末は彼女と過ごして・・・


「佐久間さんにとって私は都合のいい女だったのよ!」


私のボディーガードとか喜ばせるようなことを・・・


「調子のいいことばっかり言って、口先だけの男なんだからっ!」


思わず声を荒げてしまった。

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