《MUMEI》

「え…私?…そうねぇ・・・もしかして不倫に見えたかしら?」


ズバリ思っていることを言い当てられ答えに詰まる。


「でも残念ながら不倫じゃないの」


それを聞いてなぜだか少し安心した。


「私の大好きな人のお父様なのよ」


「課長の恋人の?」


私の問いに大西課長は黙って首を振り、


「恋人だった人って言った方が正しいわね」


と、悲しげに言った。


「どういうことですか?」


「彼、死んだのよ・・・」


思いがけない事実に言葉が浮かばない。


「婚約して一番幸せな時だったわ。でも突然・・・」


大西課長はそれ以上は話さなかった。


「あの日は彼の13回忌で…それで久しぶりにお父様と食事をしながら彼のことを偲んでたの・・・」


「まだ・・・忘れられないんですか?」


言った後、自分でも失礼な質問をしたと後悔した。


「そうね…もう10数年も経つのに。でも大分立ち直ったわ。こうやって佐藤さんにも笑って話せるもの」


そう言って大西課長はニッコリと笑った。


だから…独身でいるんだ。


「だから独身なんだって思ったわね!?」


うっ…


「なんで分かるんですか」


「なんでもお見通し。あ、グラス空いてるわよ。」


そしてワインをなみなみと注がれた。

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