《MUMEI》
もう一人の自分
 ミユウは目を閉じてその歌声に聴き入った。
ミライの歌声は昔から変わらない。

ミライは産まれてから一度も話したことはない。
ただ、唄うだけ。
しかし、ミユウにはそんなミライが一番大切だった。
一番大切な、もう一人の自分。
あの施設から脱走したのは、兄弟のためというよりも、ミライのためだった。
あのままあの場所にいたなら、間違いなくミライは殺されていただろう。
徐々にいなくなっていった、あの兄弟たちのように。

しかし、脱走計画を話すとみんなが賛同してくれた。
彼らもミユウと同じ考えだったのだ。
あの場所で生きていても、それは生きているとはいえない。
自由な世界で自由に暮らしたい。
ただそれだけが望みだったのだ。
しかし、結局みんな死んでしまった。

ミユウとミライの目の前であの男たちに殺され、水の下に沈められた。
ミユウはあれ以来、あの男たちの顔を忘れたことはない。
あの笑いながら残酷に子供を殺していった男たち。
それも、あと一人だ。

ミユウはうっすら笑みを浮かべて目を開けた。

目の前では唄い終わったミライがどこを見ているわけでもなく、宙を見つめていた。

「……あと、歌詞も必要なんだ。ここに打ち込んでくれる?」
ミユウはそう言って自分の端末を差し出した。
ミライは小さく頷くと、それを受け取り、キーを叩き始めた。

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