《MUMEI》

私は『クローバー』の入口を開けて、麗子さんを招き入れた。


「ごめんね」


「いえ、…あの、それ」


「一応、殴っちゃったから、お見舞い」


「はぁ…」


麗子さんは、『一応』と言うには立派すぎる花束と、果物の入ったカゴを持っていた。


それから、私と麗子さんは『クローバー』でコーヒーを飲んで、時間を調整してから、孝太のアパートに向かった。


麗子さんは、昔孝太を『改造』するために、俊彦と和馬と孝太のアパートに行った事があり、場所を知っていた。


「…お店、大丈夫なんですか?」


「母さんと、従業員に頼んできたから。

それに、こっちの方が大事だからね」


麗子さんはそう言って、軽やかにアパートの階段を上がっていく。


私も後から続いた。


そして、私達は、二階の突き当たりの部屋の前で足を止めた。


そこには確かに


『201 井上』


と、孝太の名字が書かれた表札がかかっていた。


「ちゃんと、まだいるのね」


麗子さんはホッとしたように呟いた。


(良かった)


私も同じ気持ちだった。


あんな事があったから、孝太がこの町を出てしまったのではないかと、思い始めていたから。

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