《MUMEI》 ピンポーン ガチャッ 「…何だ、それは」 久しぶりに会った孝太の第一声は、麗子さんの持っていた見舞いの品に対するツッコミだった。 「思い切り殴ったから、訴えられたら困るからね」 先ほどまでの、心配そうな態度から一変して、麗子さんは至ってクールな口調で答えた。 私は、麗子さんの『好きな男にはSだから』と言う言葉を思い出していた。 「来てあげたんだから、さっさと入れなさいよ」 「…悪い」 (えぇ?) 孝太の意外な言葉に、私と麗子さんは顔を見合わせた。 「わかればいいのよ」 「お邪魔…します」 私達は、孝太の後に続いて、部屋に入った。 孝太の部屋は、琴子に似ていた。 必要最低限の荷物しかない、至ってシンプルな部屋。 「意外と、綺麗なのね」 麗子さんが言う通り、部屋は、きちんと掃除されているようだった。 「琴子がたまに来るしな」 インスタントのコーヒーを入れながら、孝太が説明した。 「…入れる花瓶無いぞ」 「「あ、大丈夫」」 渋い顔をする孝太に、私達は声を揃えて答えた。 「「『クローバー』の花瓶を一個持って来たから」」 ーと。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |