《MUMEI》

ピンポーン


ガチャッ


「…何だ、それは」


久しぶりに会った孝太の第一声は、麗子さんの持っていた見舞いの品に対するツッコミだった。


「思い切り殴ったから、訴えられたら困るからね」


先ほどまでの、心配そうな態度から一変して、麗子さんは至ってクールな口調で答えた。


私は、麗子さんの『好きな男にはSだから』と言う言葉を思い出していた。


「来てあげたんだから、さっさと入れなさいよ」


「…悪い」


(えぇ?)


孝太の意外な言葉に、私と麗子さんは顔を見合わせた。


「わかればいいのよ」


「お邪魔…します」


私達は、孝太の後に続いて、部屋に入った。


孝太の部屋は、琴子に似ていた。


必要最低限の荷物しかない、至ってシンプルな部屋。

「意外と、綺麗なのね」


麗子さんが言う通り、部屋は、きちんと掃除されているようだった。


「琴子がたまに来るしな」

インスタントのコーヒーを入れながら、孝太が説明した。


「…入れる花瓶無いぞ」


「「あ、大丈夫」」


渋い顔をする孝太に、私達は声を揃えて答えた。


「「『クローバー』の花瓶を一個持って来たから」」
ーと。

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