《MUMEI》 麗子さんは、私をまじまじと見つめた。 そして、私を手伝わせたように、今度は孝太を手伝わせて… 私の髪を切り揃えた。 …一応、『伸ばしたいから』というリクエストには答えて、長めにしてくれた。 「うん、可愛い」 そう言って、麗子さんは私の髪を撫でた。 「何しに来たんだ…お前」 呆れる孝太に麗子さんは、ハッとしたようだった。 「全く。意を決して会おうと思って、琴子に協力してもらって。 緊張して待ってたら…」 孝太は、うつ向き、肩を震わせた。 「孝太?」 「孝太さん?」 心配する私と麗子さんに、向かい、孝太は続けた。 「もっと早く会えば良かった。 引き込もってた俺が馬鹿みたいだ。 …ありがとう、麗子。 おかげで前がよく見える」 ーと。 思わぬ感謝の言葉と、孝太の笑顔に戸惑いつつも、麗子さんは 「感謝しなさいよ」 と言って、横を向いた。 その耳が赤かったのが、私からは見えていたし 多分、孝太もわかっていたと思う。 それから、私と孝太と麗子さんの三人で、パウンドケーキを食べ始めた。 前へ |次へ |
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