《MUMEI》
第一話
 いつもと変わらぬ、穏やかな朝。

「なぁ、ベック」

 洗面所の鏡の前。身支度しているベックに、テオは後ろから遠慮がちに囁いた。
 ベックは細面の顔を鏡に映して、限りなく黒に近い茶色の髪についた寝癖を懸命に整えている。

「どうした?今ちょっと急いでるんだ……」

「前からちょくちょく話し合ってたこと、決めたんだ。俺、…やっぱり子供が欲しい」

 忙しそうにしていたベックの手は止まる。色白の顔を赤らめて一大決心を表明したパートナーの方を振り返った彼の顔には、喜びに満ちた優しい表情があった。

「そうか。じゃあ、作ろう。…俺達二人の子供を」

 ベックはテオを抱き寄せた。首元に触れるテオの金色の巻き毛がくすぐったい。そしてどちらからともつかず、唇が触れ合った。お互いの気持をを確かめあう、一時の至福。
 ベックが急いでいた筈の、平日の朝である。

次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫