《MUMEI》

「…ごめん。僕、やっぱ帰るよ」

 そう言って、彼は欠伸を噛み殺しそこないながら席を立つ。

「おいおい、シャーリー。お前さては今日も朝帰りかよ?」

「ご名答。じゃな」

今日は誰の家にいたのかと、怪訝そうに、しかし愉快そうに問いただすアランに曖昧な笑みだけを残して、シャーリーは店の扉に手を伸ばした。が、ちょうどその時、扉は外から開かれた。
入ってきたのはベックとテオだ。

「おっと失礼!…なんだ、シャーリーか。おはよう」

 扉を開けた途端思いがけず出くわしたので、ベックは驚いたようだ。…ついでに一瞬シャーリーを女性と間違えかけた、というのは内緒だが。

「おはよう、シャーリー!もう帰っちゃうの?」

「あぁ、今日は帰るよ。またな、お二人さん」

見送るテオに応えながら、シャーリーは、友人が間違えかけるほど中性的な細身の身体を店の外へ躍らせた。

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