《MUMEI》
答エ
電話が切られた。

こんなこと、今まで絶対なかった。優しい流理は何があっても、仕事で出られなくても、切ったりしなかった。

――何かあったのかな?間違って切ってしまったとか?

きっとそうだ。

そうに違いない。

「永井さん、実はオレ……」

「いっ、言わなくていい!わかって言ってるの。谷口には彼女がいるって。あたし……偶然聞いちゃったから」

「…そう」

それからふたり共、何も言わなかった。

好きだと言われてとてもびっくりしたけど、永井さんがそう言ってくれてすごく嬉しかった。

気持ちはとても嬉しかった。

「ありがとう。永井さん」

「…はっ?何がよ!」

「オレのこと好きになってくれて、ありがとう。でも……オレ、今の恋人のことがすごく好きなんだ」

「わかってる。ってゆーか、そうじゃないとあたしが救われないわ」

「……うん。大切にするから」

永井さんは今にも泣きそうな顔で笑った。

「絶対、大事にしてよね!あたしの分まで!」

「永井さんも大切にするよ。だってオレの高校生活最初の友達だから」

永井さんは小さく笑うと、背を向けて走って行ってしまった。

――一瞬だけど、泣いてるのが見えた。

本当にゴメン。永井さん……。

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