《MUMEI》 ◇◆◇ 「ねぇ、内裏の方にも花が咲いてるみたい」 ここから内裏まではかなりの隔たりがあるが、彼方の方に薄桃色に染まった桜の木が小さく見える。 その木が聳えている庭園は、邸の庭よりも遥かに広い。 「───────」 その側の低木に、咲弥は息をのんだ。 (あの木──‥) それは、邸の庭にあるものにそっくりなのだ。 その枝にふうわりと咲いた、牡丹の花。 「咲弥、どうした?」 「あ、ううん。何でもないの」 咲弥は黒蝶に微笑むと、再び紫の瞳を内裏の方へ向けた。 ◇◆◇ 前へ |次へ |
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