《MUMEI》

私は、上履きを買った足で、母の病院まで来ていた。
病室のドアを開くと、久しぶりに見る痩せた母の姿があった。私は駆け寄った。

「お母さん。」
「奏。」
母はニッコリと笑い、頭を撫でた。

「今日はこれから診察なの。経過が良ければ来週にも退院できそうよ。」

私は笑顔で頷いた。
母の病気は過労の他・・・心の部分が大きいようだ。父の会社のことがあり、私に気づかれまいと気丈に振る舞っていたのだと思う。

私は母に会うのが心苦しかった。私がもう少し頼りがいのある娘なら、母の心が折れることはなかったのかもしれない。私がもう少し大人だったら・・・

「新しい学校には馴れた?大丈夫?」

私は今日1番の笑顔で頷いた。いろいろあるけど、楽しくやれてるのは事実だ。

「広崎さん。診察室に行きましょうか?」
看護士さんが、母の車椅子を押し1階の心療内科室まで向かう。

私はそれに付き添った。
母の担当医は年配のおじさん先生で、ここの病院にはもう一人、若い女の先生がいた。

看護士さんに待合室で、待機するように言われ、私は窓の外を見ながら、ぼーっとしていた。

外の駐車場を見ながら、あ、名波先生と同じ車発見。などと考えていると・・・
驚くほど先生の背格好と同じような、男の人が車から出てきた。私はマジマジと見つめた・・・。

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