《MUMEI》 葵 (あおい)◇◆◇ 清らかな風。 陽射しを受け、五月雨に濡れた緑が鮮やかにその色を濃くする。 その片隅では、葵の花が開いていた。 花びらの上に、小さな滴の珠が煌めいている。 (綺麗───‥) 珠は筋となって、つう、と零れ、地の草に跳ね返り弾けた。 咲弥がそれを見つめていると、黒蝶が後ろから、ひょい、と覗き込んだ。 「──咲弥、何見てるんだ?」 「滴が光って綺麗なの」 咲弥は黒蝶を見上げ、滴の付いた葵の花を示して言った。 黒蝶は、なるほど、と呟き、咲弥の傍らで腰を屈めた。 ◇◆◇ 前へ |次へ |
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