《MUMEI》
長いキス
「こんにちは…」


『シューズクラブ』の裏口を開けると、俊彦は、事務所で書類を記入していた。

「…蝶子。おかえり」


私に気付いた俊彦は、すぐに顔を上げ、笑顔を向けた。


「おかえりって変じゃない?」


私は靴を脱いでスリッパに履き替えて、俊彦の側に行った。


「無事に孝太の所から帰ってきたから、…おかえりでいいの。

蝶子が帰ってくるのは、俺の所なんだから」


俊彦は、近くにあった椅子を引き寄せた。


「…ただいま」


私はその椅子に、俊彦の隣に座った。


「また、可愛くなってる」

俊彦が、私の髪に触れた。

「これは、麗子さんが…ちょっ」


前髪に触れた後、俊彦が軽く額にキスをしてきた。


続けて、頬にも。


「…雅彦は出かけたからね」


そう言って、私の顎を掴んだ。


「仕事…は?」


「今、終わった」


そう言って、唇を重ねてきた。


「まだ、昼間…なのに」


「だから、キスだけ。ね?」


そう言って、俊彦は、もう一度、唇を、今度は深く長く重ねる。


思わず私が俊彦にしがみつくと、俊彦も私の背中に手を回してきた。


「…この前みたいに、出来る?」

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