《MUMEI》

実家に戻ると、ちょうど母親が病院から帰って来たところだった。


「お父さん、どうなん?」


私の問いに対して母親は少しうつむき、


「ハァ〜・・・。あんまり良い状態じゃないねん・・・」


とため息まじりに言った。


「明日・・・病院に行ってみよかな・・・」


「そうしたって・・・元気なうちに顔を見せたげて」


母は力ない笑顔で言う。


そして思いついたかのように、


「あ、そうや!佐久間さん元気にしてはる?」


「え・・・?なんやの急に」


突然、佐久間の名前を出され戸惑った。


「お父さんな、愛加の彼氏に会いたいって言うてたから・・・」


「は?言うたの??」


「言うた」


母は満面の笑みで答える。


「なんでーーー!?」


「なんでって・・・お付き合いしてるんやろ?そりゃ親は知る権利があるやんか」


あぁ・・・お母さんはまだ騙されたままなんだ・・・


実は私も佐久間さんも他の人と付き合ってるのに…


どうしよう…こんな状況じゃ言いにくい。


私は悩みながらも、


「佐久間さん…お仕事でいろんな国に行かはるから、忙しいねん。せやし…無理やと思うわ・・・」


と、適当に誤魔化した。


それに対し母は、


「少しでもお父さんを喜ばせてあげたかったのに・・・残念やなぁ・・・」


その言葉を聞いて、私は良心が痛んだ。

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