《MUMEI》

翌日、母親に連れられて病院に行くと、一回り小さくなった父親がベッドに横たわっていた。


「おぉ・・・愛加か・・・」


私はなんだか照れくさく、


「頭ツルツルやな」


と、挨拶がてら抗がん剤の副作用をネタにした。


「中途半端に禿げてるよりツルツルの方がええやろ?」


父も自分の頭をなでながら楽しそうに返して、三人で大笑いする。


そんな爆笑の中・・・


「なんだか三人でこんな風に揃うのって初めてやなぁ・・・」


突然、母親がしんみりと言い始める。


「いつも誰かが欠けてて、こんなことになって初めて家族が揃うやなんて・・・」


そんな辛気臭い空気が嫌なのか、突然父親が体を起こし・・・


「そうや!佐久間さんとはうまくやってんのか?」


「えっ!?」


「お母さんから聞いたで。えらい男前な彼氏がいてるってな・・・」


父親はニヤニヤしている。


「そう!モデルみたいでとっても素敵な人やったわぁ〜」


そして母親もはしゃぐ。




ハァ―・・・


昨日に引き続き父親まで、と思うとため息が出た。


「なんやねん、そのため息は?」


父親の問いになぜか母親が私の代わりに答える。


「仕事で外国に頻繁に行かはるから忙しいねんて」


「そりゃ寂しいなぁ・・・」


「うん、まぁね・・・」


と、仕方なく苦笑いしながら返事をした。


「でも・・・佐久間さんにも暇を見つけてもろうて、お父さんにも佐久間さんを紹介してな」


そんな老い先短い父を見ると、


「うん、分かった。また連れてくるから楽しみにしててな」


としか言えなかった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫