《MUMEI》

久しぶりに母親の作った夕食を目の前にして、


「やっぱ実家は楽やなぁ」


なんて言いながら座ると


「愛加・・・」


母親が妙に真面目な顔をして近寄って来た。


「な、なに???」


突然のことで私も焦る。


「もし可能なら、お父さんに花嫁姿を見せてあげて欲しいねん・・・」


「はぁ?」


母親は相変わらず真剣に、


「お父さん・・・もう長くないんやで!少しくらい親孝行をしたってや・・・」


と泣きそうな顔で言う。


「結婚しろってこと?」


母親は「うんうん」とうなずく。


「そんなぁ・・・」


一回り小さくなった父の姿を思い出すと、病状が快方には向かっていないことくらい私にも分かった。


「相手のあることやし、そんな簡単には出来ひんことやって分かってるけど…」


懇願する母親に、


「でも・・・急には・・・」


と、言いながら太一の顔が浮かんだ。



結婚…かぁ・・・



プロポーズの返事・・・



どうしよう・・・

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