《MUMEI》
小紫 (こむらさき)
◇◆◇

 濡れそぼる庭で、紫の小さな花が、風に揺れる。

 皐月の頃から降り続く雨に、花々は生き生きとして見える。

 邸の中からそれを眺めていた咲弥だが、気配がして視線をずらす。

「草薙───」

 佇むのはその人だった。

 相槌をするでもなく、彼は外へ目を向けた。

 咲弥はきょとんとしつつも、視線を戻す。

 すると。

「黒蝶が何処かご存じか」

 そう草薙が尋ねてきた。

 ううん、と咲弥は首を左右に振る。

「いないの?」

「‥‥ひょっこり現れるとは思うがな」

 咲弥がその言葉を確信するまでに、そう時間はかからなかった。

 屋根の上から、声が聞こえてきたからである。

◇◆◇

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