《MUMEI》

◇◆◇

(草薙の言った通り──‥)

 屋根の上。

 その場所に佇む黒づくめの女は、咲弥の視線に気付くや否や、にっこりと笑いかけた。

「おお、咲弥。どうした?」

 飄々とした口調で彼女が尋ねると、咲弥は暫しきょとんとしていたが、やがて口を開いた。

「ねぇ、何か見える?」

「うーん、霧がかかってあんまりよくは‥。ま、暫くすれば見渡せるようになるはずだけどな」

 そう言いつつ黒蝶は眩しげに手を翳した。

◇◆◇

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