《MUMEI》 「どうしたとか、聞かないで。」 二郎が聞き上手なのは太郎兄がそうだからだ。 「パターン読まれてるか」 太郎兄は笑いながらブランコを漕ぐ。 年甲斐も無く楽しそうに。 「俺は今何もかも嫌だ。 太郎兄なんて普段嫌いだから大嫌いだ。」 「俺、片思いなんだあ。しょっくー」 何を言ってんだ。 「二郎と七生押し付けて俺を太郎兄の身代わりにしたんだ。」 体が弱かった太郎兄は二郎を守れなかったからと俺に二郎達を任せた。 きっと こんな風にブランコを漕ぐ為に、俺に負担を負わせたんだ。 「そんな風に思っていたなら俺はいつだって二郎を守るよ。」 ブランコから太郎兄はひらりと降り立つ。 強い目力で気圧されてしまいそう。 「……姉一人守れずに?」 ――――――――あっ という間の出来事だった。 俺がそう思ったのは勿論、一瞬で右頬は熱を持っていた。 そうか、打たれたのか。 痛みが風でヒリついた。 「――――ごめん」 「謝らなくていい、太郎兄が悪い訳じゃないよ。」 俺が言い過ぎたのだから。 「乙矢、俺は強くなるよ。手術受ければ、もう簡単に倒れたりしないよ。」 汚れていない人間の目だ。 「きっと、太郎兄ならやってのけるんだろうね?」 二郎も七生も皆太郎兄に夢中なんだから。 「乙矢は考えを口にしないから心配なんだよ。だって俺達、家族だろ? 俺が皆守ってやるから。」 この人は、そうやって異質な俺を無意識に追い出そうとして…… 「嫌だ……」 ママゴトは嫌だ…… 愛は欲しい、でも欲しいのはそんな薄っぺらな愛なんかじゃない。 互いに惹き合う、求め合う そんなものが、二郎の持つそんな与えたがる愛が欲しい。そして与えたい。 これは家族か? これで満たされるか? 零れるほど溢れる感情みたいに涙が流れる。 「乙矢……お前のその誇り高さ、凄いと思うよ。」 違う、違うんだ。 そういうのじゃない……。 兄として全うしたいわけじゃない。 でも、二郎と離れないためには………… 太郎兄の代わりでいなければいけない。 「ごめん、上手くやっていくからお願い……俺を」 俺から二郎を奪わないで。 「俺こそ、乙矢を無意識に利用していたんだな。一番最年長のくせに何してるんだか。」 「俺は、重いと思っても嫌いになっても許すよ。 それでもやっぱりこのままでいたいから。」 手放したら戻ってこないもの。 「家族に依存しちゃいけない、乙矢はいつか知らなくちゃな…………例えば恋とか。」 二郎への感情が恋じゃなかったならなんなのだろう。 前へ |次へ |
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