《MUMEI》
仮装
「俊彦は?」


結子さんは中に入って、辺りを見渡した。


雅彦は、無言でクローゼットを指差した。


ちなみに、私達の四人部屋は和室だが、二人部屋と、場所によって、三人部屋も洋室だった。


「…蝶子、お願い」


結子さんに指名されて、私がクローゼットを開けると…


そこには俊彦が隠れていた。


「毎年なんだから、諦めなさい」


「嫌だ!」


俊彦はクローゼットの扉を閉め、中に籠った。


「…支度を蝶子がやるって言っても?」


結子さんの言葉に、クローゼットからガタンと音がした。


「あの、何の話ですか?」

「ん? ちょっとした、仮装の話。
私は雅彦の支度で忙しいから、俊彦お願いできるわよね?」


結子さんは有無も言わさぬ口調だった。


そして、雅彦を連れて、ユニットバスに行ってしまった。


『これ、お願い』と、ベッドの上に荷物を置いて。


「…俊彦、嫌ならいいよ。私もやらないから」


「何の話?」


「仮装の話」


結子さんが置いて行った荷物には、私の衣装も入っていた。


結子さんは、『俊彦がやらなかったら蝶子もやらなくていい』と、私に言い残していた。


「何やるの?」

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