《MUMEI》

私の答えを聞いた俊彦は、すぐにクローゼットから出てきた。


そして、『着替えとメイクお願い!』と言って、ベッドに腰かけた。


「はい」


「脱がせて」


「え?」


「じゃなきゃ、着替えない」


俊彦がそっぽを向いた。


「いいわよ、別に」


「わ、嘘です。着替えます」


そして俊彦は、ニットワンピースを着て、紫のカラータイツを履いた。


「メイクは、出来ないよ?」


「…できたら怖いから」


慣れた手付きで、俊彦は化粧下地まで付けた。


(肌、綺麗だな…)


私は、ファンデーションを塗り、できるだけ自然に眉を書いた。


(パッチリ二重だし…)


シルバーグレーのアイシャドウを塗り、ブラックのアイライナーを引く。


試しにビューラーを渡すと、俊彦は、器用にまつ毛をはさんで上向きにした。


「…慣れてる?」


「毎年やらされてるから」

俊彦は、ため息をついて、私にビューラーを返した。

私は俊彦の長いまつ毛に、マスカラを重ね塗りした。

それから、リップクリームと、グロスを塗る。


(き、緊張する…)


筆を持つ手が震えた。


俊彦の唇の柔らかい感触が、筆から伝わってきた。

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