《MUMEI》

「ちょ、ちょっと!」


「だって〜、俺、水着着替える暇無かったんだもん。
でも…蝶子がどうしてもって言うなら…」


「脱がなくていい!」


私は浴衣に手をかける俊彦を慌てて止めた。


「…ていうか、俊彦、大丈夫?」


「ん〜?」


ヘラヘラ笑う俊彦からは、お酒の臭いがした。


「だめ…か、も」


「ちょっ!」


沈んでいく俊彦を、私は必死で支えた。


「もう、ダメだ」


「そ、そんな」


俊彦は、ぐったりしながら私につかまってきた。


「もうちょっとだけ、頑張って、…ね?」


私は俊彦を励ましながら、少しずつプールサイドに移動した。


「頑張れ…ない」


俊彦は自力で上がれないらしく、ますます私にしがみついてきた。


(どうしよう…)


水中ではどうにかなったが、俊彦を持ち上げるのは、私には不可能だった。


「チューしてくれたら頑張れる〜」


「それはダメ!」


私は思わず水しぶきをあげながら、俊彦から離れた。

(しまっ…)


俊彦が沈んで…


「ひっど〜い!」


バシャッと音を立てながら、浮かび上がった。


「酷いのはそっちじゃない!」


俊彦は平然としていた

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