《MUMEI》
スベった事を客のせいにするな!
悲しみは浮舟となって大空へ飛び立った。


街にはさらに雄々しさを増した海藻がひしめきあっていた。
天童よしみがカサハラを海藻を使って埋葬したばかりだったのだ。

天童よしみ「カサハラよ」

天童よしみはまたひとつ十字架を背負った。


山田を乗せた御輿はついに山の頂へとたどりついた。
ここからなら街が見渡せる。しかし山田はそれをしなかった。
いや、できなかった。
なぜならコンブが瞳にはりついてとれなかった。
視界が真緑で目にやさしい。
加えて、長い時間コンブと共に歩んだ山田の髪は、どこもかしこも美しかった。

山田「髪をそめるのはやめよう。日本人はツヤツヤの黒髪が一番よい。私はもう迷わない」

長女「時は満ちた」

山田が振り向くと長女がいた。
長女は光る毛織物に身を包み、やわらかにほほえんでいる。
しかし、両足はたえまなくボックスステップをふんでいた。
山田もつられてふんでしまった。

長女山田「美味」

長女はそのまま茂みの中へと消えていった。
さりぎわにこんなことをつぶやいた。

長女「山田、お前が信濃川をこしらえたのだろう」

山田「…!!」


山田は神だったのだ。





遠い地、パキスタンでは、パキスタンの人が父の残した言の葉に思いをめぐらしていた。

父『パキスタンの人よ、臨機応変に行動せよ』

パキスタンの人は辞典をひいた。力の限りひいた。
その辞典の表紙はすすけた赤茶色で、彼の学びの歴史を感じさせた。
しかし半分以上のページが、かつて彼の友であった牛に食されていて無かった。
もはや辞典と呼べるしろものでは、ない。

パキスタンの人「父よ」

仔牛「ノゥ」

牛は子を残していたのだ。



長女は図書室で俵万智を借りた。
めくるめく口語定型歌の世界に酔いしれた。
そうだ。セイントにも書物を借りていってやろう。
たしか将来は、発展途上国で人の役に立つ仕事につきたいと言っていた。
世界情勢の分かる易しい書物を借りていってやろう。
しかし長女はそれをやめた。
空々しく笑った。

長女「ハッ」

人類に明日はないのだ。



母は再びミートパイを焼きはじめた。
父はそれを許す。

テニス等、クラスメートはそろばんにいそしみ、メジロは風に舞う。

日常。

セイントは、自らのあけた穴から見えるそんな風景を愛していた。
美しいと思った。


世界滅亡までのカウントダウンが始まった。

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