《MUMEI》

「チュー位、いいじゃんかぁ…」


「お酒の臭いが、ダメなの」


私の言葉に、俊彦は首を傾げた。


「日本酒、ダメなの?」


「…」


私は答えなかった。


…嫌いでは無かった。


ただ、『問題』があった。

「そういえば、蝶子って日本酒飲まないよね。
他のは飲むのに」


確かに、私は『クローバー』に就職してから、カクテルもビールもワインも飲んでいたが…


日本酒だけは、飲まなかった。


昔一回飲んで以来、…飲むのを、専門学校の同級生に止められたから。


「何か、…あるの?」


「悪酔い、するから」


私は、小声でそれだけ言うと、また泳ぎ始めた。


すると、後ろからものすごいスピードで、俊彦が追いかけてくるのがわかった。

(う…嘘!)


いくら、男女差があるといっても、私は水着で、俊彦は浴衣だ。


しかも…酔っ払いのはず、なのに。


「つ〜か〜ま〜え〜た〜」

「キャア!」


私の足首を掴んだ俊彦は、そのまま私の体を抱き寄せた。


「実はね〜」


「な、何っ…?」


俊彦が耳元で囁いた。


「蝶子と飲もうと思って、地酒持って来たんだよね」

そう言って、俊彦は笑った。

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