《MUMEI》
走り出す気持ち
東京までの車中を共にした越智さんを残し、私はドアが開くと同時に新幹線を飛び降りた。


「すいません・・・ちょっと急いでるので・・・」


人ごみを押すようにかき分けて走り、おばさんに睨まれるが気にしない。





私の突然の宣言を聞いた越智さんは、


「えっ、今から!?」


って驚いてたけど、私には悠長にしてる時間なんてない。




『年始にはエジプトに行っちゃうんだって』




もしかしたら・・・もう行ってしまったかもしれない。


それでも、まだ出発してない可能性があると思うと、居てもたってもいられなかった。



いま会わないと後悔する!



その思いだけで、必死にこれでもかというくらい走った。



走りながら佐久間さんとの思い出が頭を駆け巡る。




ドライブの計画を立ててくれたのに、結局お母さんと三人で東京観光して・・・


一緒にマンションを探した時なんて、私すっごいイライラしちゃって。


トレビの泉のジンクス・・・
二枚投げたって言われても分かるわけないじゃない!


けど、本当は一緒にいると楽しかったの・・・



なのに・・・


熱を出したときに看病までしてくれたのに・・・


そして上原に襲われた時にも助けてくれたのに・・・


私・・・


お礼も言ってない・・・



いつも、ひどいことばっかり言ってた。


佐久間さんの気持ちなんて知らずに。




急がないと・・・


佐久間さんに会わなきゃ!

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