《MUMEI》
不可能なキスマーク
(な、何これ?)


脱衣所で浴衣を脱いだ私は驚いた。


「どうしたの? 蝶子」


「あ、いえ…」


私は慌てて足を閉じた。


結子さんは首を傾げながら、先に大浴場へと入っていった。


私はそっと、もう一度、自分の太ももを確認した。


太ももの内側には、虫に刺された後のように、赤くなっている箇所がいくつもあった。


今は十一月で、高原は、どちらかといえば肌寒く


…虫などいるはずは無かった。


(でも…こんなとこ…)


そこは、旅行の直前、俊彦がリハビリで触れた途端に体が硬直してしまった位置だった。


(有り得ない…)


私は大浴場に入り、足をゴシゴシと洗ってみたが、やはり、それは


無数のキスマークは、消えてはくれなかった。


(俊彦…だよね?)


記憶は無くても、こんな事をする相手は、ただ一人しかいなかった。


今回のキスマークも


前回、スポーツジムに行く前に上半身に付けられたキスマークと


形は同じだったから。


それから、結子さんと一緒に露天風呂に移動し、二人きりになった時に、昨夜の私の様子を質問してみたが、結子さんは『普通だったわよ?』と言って首を傾げた。

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