《MUMEI》
未確認
「おはよう」


広間に現れた俊彦に私は思い切って、近付き、挨拶をした。


「…おはよう」


私を見る俊彦の目は、充血していた。


それに…


俊彦は、普段は『首が窮屈だから』と絶対に着ないタートルネックのトレーナーを着ていた。


しかも、それは、元々の荷物ではなく、ロビーの民芸品コーナーで売られていた藍染めのトレーナーだった。


(やっぱり、何かあったんだ)


「あの…」


私は緊張しながら、俊彦に確認しようと口を開いた。

「あぁ、ヨネさん!お茶が無いね!」


俊彦は、慌ただしく、上座に座る最年長のヨネおばあちゃんに駆け寄った。


そして、その後も


『計画立てたの、俺だからさ』と言って、参加者の世話を焼いた。


ただ一人。


…私だけを除いて。


私は俊彦のそんな様子を見て、どうしようもなく不安になった。


(私、何をしちゃったんだろう?)


記憶が無いだけに


唯一事実を知っている俊彦に、意図的に避けられているだけに、不安は募っていった。


そして、旅行の次の週。


『和馬と孝太がいなくなるから、体力を温存したい』と言われ、私は俊彦の所に行かなかった。

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