《MUMEI》
◇壊れゆく二人◆
(ここまできたら、もう心決めな…)
私は、冷たい窓にそっと手を置き、外を眺めていた。
まだ引き返せるのでは、と考える自分の心が白々しく感じる。

(今更そんな気ないやん、お互い…)

ここ何日か、過ごしやすい日が続いているが、まだ冷房が入っているせいで、どこに行くにもストールが手放せない。
なのに今は、体が熱ってたまらない。
窓から見える宝石みたいな夜景も、今日は瞳に映っているだけだ。

気配が近づいた。
大きな熱い手が、私の肩に置かれた。
私の隣に千秋が映っている。

「…ほんまにええんか?夏生…」
「…千秋はどうなん?」
「…」

何度も何度も躊躇し、口に出さずにお互いはぐらかしてきた瞬間が、とうとう訪れたのだ。

「まだ引き返せるで。でも、俺の気持ちはもう変わらん。夏生の気持ち次第や。」

肩にかかった手が、さっきよりぎゅっと私を抱く。
その手が汗ばんでいることが、服の上からでもわかる。
私は千秋と向き合い、お互い見つめあった。

「あたしも、もう自分を抑えきれへん。」

やっと自分の胸の内を打ち明け、千秋の胸に体を預けた。
千秋の手が、私の背中に回る。
私も、千秋の背中に手を回した。
千秋の鼓動が、大きく音を立てている。
私の中で、アドレナリンが勢いよく駆け巡る。
激しすぎて倒れそうだった。
倒れまいとするかのように、私達はお互いに抱きしめあった。


そして、二人は壊れていく。

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