《MUMEI》
◇虚しい朝◆
夏生は、わりと大柄だと思っていた。
姿勢がよく、態度が堂々としているが出過ぎない。
今、こうして腕の中にいると、華奢に感じる。

夏生とのキスは、初めてではなかった。
何度も何度も唇を重ねてきたのに、今日は互いに、いつもより敏感に感じる。
アドレナリンが、体から噴出する勢いで巡っている。
体全体が心臓になったみたいだ。
絡み合う舌にさえ、普段感じる以上に性感が昂まっている。

俺は夏生の体に、指や唇を這わせた。
ゆっくり、ゆっくりと。
夏生の輪郭を、肌を、細胞を余すことなく記憶するかのように、掌で、指の腹で、唇で、舌で感じとる。
夏生は、あえぎながら体全体で俺に応えている。
言葉はひとことも交わさない。
それでも、お互いの欲していることは解る。
夏生は、待ちきれないでいた。
俺ももう、抑えきれない。

俺たちは見つめあった。
俺は夏生の中へ飲み込まれていく。
絡みあう舌と、ひとつになった俺たちの体がシンクロする。

俺はそっと動きはじめた。徐々にスピードがあがっていく。
夏生の中がとても滑らかで、それが俺の快感を助長する。
俺は無心だった。
そして、そのときはやってきた。
あっけない終わり。
夏生の胸元に、俺の昂まりが飛び散った。
俺独りで、終わった。

「…俺、…」

胸元をティッシュで拭き取る夏生に、言葉に詰まりながら俺は話しかけた。

「…一人だけ、ずるいやん。」
「そんな…ごめん。」
「うそうそ。」

夏生が笑った。俺も、笑った。

「まだもの足りへん。」
「私も。」

少し、緊張感がほぐれた。
お互いにパートナーがいて、パートナーの前には付き合った相手もいて、セックスを知らないわけじゃない。
その行為を知っていても、状況と相手によって、こうも精神に影響するのか。
頭ではためらいを捨て去ろうとしていても、心は躊躇していたのかもしれない。

「…どうして欲しい?」

夏生の目を見つめながら、俺は夏生に聞いた。
夏生は静かに俺に背を向けた。
後ろ手に俺の手を取り、胸元に導く。
俺は夏生の背中を、首筋からスタートして、唇と舌でゆっくりと攻めた。
夏生は背中の性感が高かった。
さっきとは比べものにならないほど、激しくあえぐ。
弓なりの背筋がきれいだ。
突き出た乳房が、俺の手に余る。

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