《MUMEI》 衝撃の告白だった。妻が妊娠したのだ。 俺は子供の頃にかかった病気が原因で、標準的な男よりも子供が出来にくくなった。 妻はそのことをわかった上で、俺と結婚してくれた。 俺たちはあらゆる方法を試したが、子供はできなかった。 子供のことはなかば諦めて、この先二人で暮らしていこうと思いはじめた矢先のことだった。 最近、妻が体調を崩していたのは、妊娠していたからだと、やっとわかった。 妻の実家で夕飯を食べ、俺たちは家に帰った。 帰る途中、煙草に手を伸ばしかけたとき、助手席の妻の顔が目に入った。 妻は、どちらかというと幼顔で、守りたくなるタイプだ。 それがまだ妊娠して間もないとはいえ、大切なものを温かく見守る顔になっている。 俺は伸ばしかけた手を元に戻した。 「…ありがとうな。大事にしような。」 妻は穏やかに微笑んでいた。 その表情に、俺の心は少し満たされた。 妻と新しい命を、大切にしよう。 顧客との打ち合わせを終え、俺は車を家に向けて走らせた。 予定より早く終わったので、妻を食事に連れていってやろうと思い、家に電話をした。 「もしもし、」 話し出そうとして、留守電の応答メッセージが流れた。 (買いもんにでも行ったかな) 今度は妻の携帯電話にかけてみる。 つながらない。圏外になった。 (しゃあない、帰るか) 俺は再度車を発進させた。 交差点で信号が変わるのを待っていると、反対車線側の歩道に妻の姿を見つけた。 もう一度電話をかけようとしたそのとき、俺の目に信じられない光景が飛込んだ。 そこにたたずんでいた俺より少し若い男と妻が、手をつないで歩き出したのだ。 直感的に、俺はこの二人が恋愛関係にあり、付き合いもそう短くないと思った。 後をつけようか、迷った。信号が変わり、後ろの車がクラクションを鳴らした。 俺はやむなく車をスタートさせた。 心が乱れている。運転に集中できない。 ファミレスを見つけたので、駐車場に車を入れた。 妻の裏切りに遭い、腹立たしい思いで胸が傷む。 しかし、俺はそれを責める資格はない。 俺自身、夏生と関係を持ち、妻を裏切った。 子供ができない可能性が高いから、いつかこんな日がくるかもしれない、と密かに思ってもいた。 妻を責めるのか…許したとしても、これから先、妻と普通に接していけるのか。 前へ |次へ |
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