《MUMEI》 研修が終わった日、少し早く夫が帰ってきて、久しぶりに外食しようと夫が誘ってくれた。 しかし、私は体調が気になって、家でゆっくりしていたかった。 夫にどうやって言えばいいのか… 急に目眩がして、吐気をもよおした。 さすがに夫も私の様子がおかしいので、心配して聞いてきた。 私はようやく、妊娠したことを夫に告白できた。 夫は、予想になかったこの知らせを、とても喜んでくれた。 子供は欲しかったが、家を空けることが多いため、しばらく無理だと諦めていたのだ。 千秋とのことを忘れるため、子供ができたことは、私にとってもよかった。 あの日までは… 普段から夫はよく私を気遣ってくれたが、妊娠してからはことさらよくしてくれた。 自分も大変なのに… 夫の私への想い、お腹の中にその夫の子供がいることが、いつしか私の心を癒していった。 そしてあの日… 夫がまた出張することになった。 しかも予定はひと月だ。 ご近所の人たちと、ようやく親しくなりつつあったものの、何かあったときに、頼りにできるほどではなかった。 夫は私の身を案じて、一時私の実家に行くことを勧めた。 両親は、遠方に行った娘がひと月も戻ってくるので、大喜びだった。 実家に滞在している間、学生時代の友人や、元同僚と会った。 夫がほとんど家にいないことを知っているので、妊娠したことをいうと、みんなとても喜んでくれた。 元同僚とのランチの後、久しぶりに街を楽しんで、帰ろうとしたとき、懐かしい声に呼び止められた。 その日は平日で、千秋の職場はそう遠くない。 会う可能性は考えられた。 車の中に二人きりなのに、私はとても冷静だった。 あんなに必死で忘れようとしていたのに… しかしそれも、千秋のあの告白を聞いて、ぎりぎり保っていられるほどになり下がった。 私の大切な命、大切な人とのものだと信じたい… 腕の中で寝息をたてて、子供が眠っている。 ベビーベッドへ移す。 子供は無事、五体満足で生まれた。 夫は大喜びで泣いた。純粋に喜んでいた。 予定通り退院し、夫と私、そして新しい家族を迎えた三人の生活が始まった。 旅行気分で、夫の両親も私の両親も、孫を見に我が家へやって来た。 みんな、口を揃えて言う。 子供が私に似ている、と。 その理由は、私だけがわかっていた。 前へ |次へ |
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