《MUMEI》 ◇◆◇ 未の刻を過ぎても、陽は眩さを増す一方だ。 「はぁ‥‥。なぁ、貴船に行かないか?」 黒蝶が言ったが、草薙は聞く耳を持たない。 「‥‥陽が落ちれば少しは涼しくなるだろう」 「その前にどうにかなりそうなんだけどなぁ‥」 「‥‥‥‥‥‥‥」 暑さに茹る黒蝶をよそ目に、草薙は黙々と己の努めに執着している。 咲弥は木陰からそのやり取りを見ていた。 「───────」 すう、と風が横切った。 それは池の水面を掠め、音もなく過ぎ去って行く。 ◇◆◇ 前へ |次へ |
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