《MUMEI》 裏口の鍵俊彦に会えなかったその日の気温は、私の心と比例するように例年より低かった。 私は、部屋にストーブを入れたり、念入りに部屋の整理や掃除をすることで、何とかその日一日を乗り切った。 (明日は、会える…よね?) 付き合い始めてから、私が配達に行くと、俊彦は一日に一度は顔を見せてくれた。 しかし、翌日。 私は意外な物を咲子さんから渡された。 咲子さんは、昨日商店街に買い物に行った時に、俊彦から渡されたと言っていた。 それは 『シューズクラブ』の裏口の鍵だった。 『シューズクラブ』の裏口は、ファンを警戒していつも鍵がかかっていた。 だから、私や咲子さんは、いつも声をかけて、『シューズクラブ』の誰かに鍵を開けてもらっていた。 それが、『クローバー』と『シューズクラブ』のコミュニケーションでもあったのだが… 『忙しいから、勝手に入って、適当な場所に置いておいて下さい』 俊彦は、咲子さんにそう伝えたと言う。 私は、ガックリと肩を落としながら、日々の配達を続けた。 (本当に、忙しい、だけ…よね?) 日に日に不安は募って行った。 そして、その日も、私はため息をついていた 前へ |次へ |
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