《MUMEI》

突然、孝太が窓の外を見て言った。


「雪見酒もいいわよね〜」

麗子さんが笑った。


「暖房入った室内、なら…な」


「…?」


孝太の言い方は、意味深だった。


「例えば、誤解されて落ち込む男がいたとする」


「…?」


「馬鹿な事に、周りが止めるのも聞かずにそいつが外で女を待っているとしたら…
どうなるんだろうな〜?」

「風邪は引くわね、確実に」


咲子さんがきっぱりと言った。


「例えば…よね?」


「どうだと思う?」


孝太はニヤリと笑った。


「もしかしたら、死んじゃうかもね」


「行ってきます!!」


麗子さんの言葉に、私は立ち上がった。


「はい、じゃあ、コートとマフラーと、手袋とブーツ」


咲子さんはすぐに、まるでわかっていたように、私の身支度を整えた。


そして


「今夜は帰ってこなくていいからね」


と言って、私を送り出してくれた。


私は、この時は


俊彦の無事な姿を確認したら、『クローバー』に戻るつもりだった。

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