《MUMEI》
凍えた体
「な…」


私は、『シューズクラブ』の裏口前に来て、絶句した。


「やぁ、蝶子」


「『やぁ』じゃないでしょ!」


私は背伸びして俊彦の頭と

それから両肩に積もった雪を取り払った。


「何してるの? こんなとこで、こんな格好で…」


俊彦は、この寒さの中、『シューズクラブ』で働いている時の、スーツ姿だった。


「蝶子…待っ…てた。あと、ちょっと、頭と体冷やそうかと」


俊彦の唇は青ざめ、震えて時々歯がカチカチ鳴った。

「とにかく、中に…」


「蝶子」


俊彦は、ドアノブに手をかけた私の手を握ってきた。

…氷のように冷たくなった手で。


「何?」


「入るなら、…覚悟を決めて」


『覚悟』


その言葉に緊張しつつ、私は


「何の…覚悟?」


俊彦を見つめて、質問した。


「電話で言ったよね。もう、リハビリ、終わりにするって…

今日は…

中に入ったら



最後まで、するから」


「えぇ?!」


私は、予想外の俊彦の言葉に驚いた。


「もう、私の事…
嫌になったんじゃなかったの?」


「何それ!」


今度は俊彦が驚いた。


そして、大きくクシャミをした。

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