《MUMEI》

「お、覚えてないもん!そんなの!」


「本当に、そうみたいだね」


俊彦はまじまじと私を見つめた。


「目は座ってたけど、体の反応も、帰ってく時の足取りも、ちゃんとしてたから

…酔った『フリ』してあんな大胆な事したのかなあって疑ってたんだけど」


「本当に、覚えて無い!」

「みたいだね」


それから、俊彦は…『じゃあ、教えてあげるから』と言って、私を自室に連れて行った。


「ところで、…さ」


パタンとドアを閉めてから、俊彦が確認してきた。


「多分、…あの日の再現をしたら、俺、我慢出来ないと思うんだよね。

ていうか、あの時最後までしなかったの、はっきり言って、奇跡…だし」


俊彦の言いたい事はわかった。


(どうしよう…)


嫌われたと思って、夢中で来たけれど、まさかこんな展開になるとは私は思っていなかった。


でも、付き合っていたら…

いずれこの日が来ることは、わかっていた。


私は子供ではない。


もちろん、俊彦も。


大人の男女が両想いになって、付き合って…何をするかはわかっていた。


それでも、私は今まで俊彦に甘えて、それを避けてきた。

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