《MUMEI》

その俊彦が、『我慢できない』と言っている。


おそらく、今も我慢している。


小さく震えているのは、寒いからではないような気がした。


実際、エアコンから、暖かい風が出てきていて、室内の温度は徐々に上がってきていた。


「…あれから、顔を見ると、あの夜の、…乱れた蝶子を思い出しちゃうんだ。

…だから、仕事にならないから…」


「…これ?」


私がコートのポケットから『シューズクラブ』の裏口の鍵を見せると、俊彦は小さく頷いた。


「避けられて、嫌われたと思った」


「…不安にさせて、ごめん」


私は首を横に振った。


そして


緊張しながら、俊彦の袖を引っ張った。


「…蝶子?」


恥ずかしさと緊張で、真っ赤になってうつ向きながら、私は言った。


「…教えて。私が、何をしたのか」


ーと。


「それって…」


「だから…


痛く、しないでね…」


私は下を向いたまま俊彦に頼んだ。


「優しく…するよ」


俊彦は、私のつむじにキスをして…


「ベットに行こう」


そう言って、私の手を引いた。


私は無言で頷き、俊彦に従った。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫